みなさんはブルガリアワインを飲んだことがありますか?日本のワインショップやスーパーではまだ見かけることが少ない産地ですが、ヨーロッパでは高品質でカジュアルに楽しめるワインとしてすでに人気が定着しているそうです。日本でも取り扱う大手企業や飲食店がじわじわと増えており、日本への輸入量はここ数年、右肩上がりに伸びているというから気になりますよね。

田村さん「ブルガリアワインが品質の高いワインとして世界から評価されるようになったのはここ最近のことで、今まさに急成長を遂げている産地です。日本でもますます流通量が増えていくと確信しています。」


今回お話してくださったのは、東ヨーロッパエリアを中心としたワインや食品ビジネスを手掛けるファルール株式会社代表取締役の田村さん。現地の生産者と日本の企業をつなぐサポートや、輸出入ビジネスにおけるコンサルティングを主にされています。田村さんは、学生時代から思い描いていた“東ヨーロッパに貢献したい”という考えのもと今のお仕事をはじめられたそうですが、なぜそれほどまでに東ヨーロッパに強い想いを持たれたのか。ブルガリアワインについて教えていただく前に少しだけお話を伺いました。


田村さん「学生時代をスペインで過ごした私は、政治体制の崩壊後にさまざまな思いを抱えて西ヨーロッパにやってきた東ヨーロッパの人々に出会う機会が多く、彼らの前向きで情熱的な人間性に感銘を受けました。そして、いつか東ヨーロッパの国々に貢献したいという想いが生まれたんです。」
専門商社である前職を退職したことを機に、待望だった東ヨーロッパに関わるお仕事をはじめられたそうですが、専門に選ばれたのはワインや食品の分野。なかでもワインに着目された理由には2つのポイントがあったそうです。



田村さん「その一つに、ワインは国や街に産業をもたらすことができる強い力を持った商材であることが挙げられます。どんなに過疎な場所であっても良いワインが生まれればそこに雇用が生まれ、街が発展していく。ワインはそんな事例をいくつも作り上げてきました。そして、もう一つに、東ヨーロッパのワインの品質が当時数年で格段と上がり、素晴らしい成長を遂げていたこと。世界の中でもトップクラスに品質に厳しい目を持つ日本でも、必ず評価されると確信が持てたんです。」

世界最古の生産地だけど期待のホープ!?

ブルガリアワインは日本ではここ最近になって少しずつ見聞きするようになったため、一聞ではニューワールドのワイン?と思いがちですが、実は6,000年の歴史を持つ世界最古の生産地の一つだそうです。そしてブルガリアは1980年には世界第4位の輸出量を誇っていたほどのワイン大国なのだそう。
ではなぜ、ブルガリアワインが日本のみならず世界から評価されるようになったのがここ最近のことなのでしょうか。


田村さん「ブルガリアをはじめ東ヨーロッパの国々は長いあいだ共産主義の下にありました。この期間は民間でワインを造ることができず、量を重視した生産がなされていたため、品質の低下を招いてしまったのです。これにより、ワイン産業は一時著しく衰退したと言われています。」
長く共産体制下にあったブルガリアでは、1989年に社会主義体制が崩壊。その後、ようやく民間でのワイン造りが可能になったことで、ワイン産業が再燃し始めます。2007年にEUに加盟したことにより、国外からのコンサルタントの起用や、近代設備の導入が加速し、品質重視のブティックワイナリーも増えていきました。このようにして、ブルガリアワインの品質は急激に向上していったのです。
近代的な設備が導入されているヴィラ・メルニックワイナリー
田村さん「私の感覚だと、2000年代に国内外からブルガリアのワイン産業への投資がはじまり、品質が安定してきたと感じたのは2010年に入ってから。国際市場に再び出回るようになって間もないため、ブルガリアの人々はワイン造りに対してとても謙虚で、その謙虚さもブルガリアワインの魅力の一つに感じています。より良いワイン造りの方法があると聞けば柔軟に取り入れていきますし、チャレンジする姿勢も強くて、良質なワインを生み出すことに真っすぐ。これからますます発展していくと期待が膨らみます。」

古い歴史がありながらも、ニューワールドのような躍動感があるブルガリアワイン。今がまさに注目しておきたいタイミングだという声が多く聞かれます。

田村さん「高品質なワインが国際的に流通し始めた時期からみても、現在は長期熟成して楽しむようなワインはまだ少ないですが、気軽に普段楽しめるカジュアルなワインとしての品質は旧世界のワインを飲み慣れているヨーロッパの国々でも好まれるほど。さらに、フランスやイタリアといった国と比べると全体的に物価が低めなので、この価格でこの品質のワインが楽しめるのかと驚かされますよ。」

高品質な国際品種からユニークな土着品種も

コストパフォーマンスが良いワインとして世界でも認められているブルガリアワインですが、栽培される品種や味わいにどんな特徴があるのでしょうか。
田村さん「メルロやカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランやアリゴテをはじめとした国際品種が多く栽培されています。」
さらに、ブルガリアはイタリア中部やフランス南部とほぼ同緯度にありながら比較的冷涼な気候であるため、高品質なピノノワールが楽しめることでも定評があるそうです。
 2,000種以上あると言われているブルガリアのブドウ
田村さん「そして、国際品種のほかにも、ガムザ、マヴルッドなどの土着品種が数多くあり、じつにバラエティ豊かなワインを楽しむことができます。」
ワイン造りの歴史が古いブルガリアには、紀元前から造られていた固有品種が今もなお栽培されているそうです。ガムザはそのうちの一つでブルガリアを代表する土着品種です。
まずは国際品種でブルガリアワインのポテンシャルを確かめ、その次のステップで土着品種の個性ある味わいを楽しんでみる。そんな楽しみ方も良いかもしれません。

注目しておきたい4本をピックアップ

ブルガリアワインを実際に飲んでみたいと思っても、まだあまり馴染みがないですし、さらに品種が幅広いためどのワインを選ぶべきか悩みますよね。
ということで、ブルガリアワインの実力を存分に実感できるおすすめの4本を田村さんに紹介していただきました。気になるワインは早速試してみたいところですが、まだまだ日本での流通量が少ないブルガリアワイン。残念ながら今はまだ日本に入ってきていないワインもあります。しかし近い将来、店頭で見かけるようになるかもしれませんので、その時のためにもぜひ覚えておいてくださいね。

まずはすでに日本で購入できる2本を紹介していただきましょう。
田村さん「これから紹介するヴィラ・メルニックの赤ワインとオレンジワインはぜひ開栓してから2〜3時間待って飲んでみてください。そうするとより個性が発揮されて魅力がぐんと増します。例えば、食事の時に開栓して、半分は食事と楽しみ、そして半分は残しておいて時間を置いてから味の違いを感じてみる。そんな楽しみ方も良いと思います。」

①ヴィラ・メルニック ベルグレ メルニック&ピノノワール 2018



ブルガリアの固有品種メルニックとピノノワールをブレンドした1本。
田村さん「スパイシーで重厚な味わいが特徴のメルニックと、その真逆にあるような味わいのピノノワールを合わせることで、絶妙ななめらかさを生み出したワインです。果実味とタンニンが心地良く、上品さを感じられる1本です。」
家族経営のアットホームなワイナリー、ヴィラ・メルニックが年間6,000本のみ生産している限定ワイン。ブドウの澱取りに卵の卵白を使わない「ビーガンワイン」という点も注目したいポイントです。

②ヴィラ・メルニック オレンジワイン 2018


①と同じヴィラ・メルニックが手がけたオレンジワインです。オレンジワインは白ぶどうを使って赤ワインと同じように果皮を果汁と一緒に発酵させたオレンジ色のワインで、幅広い食事と相性が良い反面、少しクセが強いのが特徴です。
田村さん「このワインはオレンジワイン独特のエグ味が感じられにくく、飲みやすいのが特徴。それでいてオレンジワインらしい面白味もちゃんとあって、和食やアジアンフードとの相性がとても良いです。そして、このワインこそぜひ開栓してから3時間ほどおいて飲んでみてほしい。味わいがやわらかく変化して魅力が格段と増しますよ。」
こちらの2本のワインは日本でも販売しているものなので、ぜひ実際に試してみてくださいね。そしてファルール株式会社のオンラインショップでは、この2本を含む今回の取材でご紹介いただいたブルガリアワイン&ルーマニアワインのワインセットを販売いただいています。気になる方はそちらもチェックしてみてくださいね。

続いて紹介するワインは日本にまだ入ってきていないワインたち。
田村さん「もし、輸入したいインポーターの方がいらっしゃれば、ワイナリーを紹介出来ますので、ぜひご相談くださいね。」

③ボノニア・エステイト ゴモタルツィ ソーヴィニョンブラン 2020


サクラアワード2021で金賞を受賞した2020年ヴィンテージ。ボノニア・エステイトが手がけるゴモタルツィというブランドのラインナップです。
田村さん「こんなに素晴らしいソーヴィニョン・ブランが造られるのかと、ブルガニアワインの実力の高さを実感していただけるワインです。とてもクリアな酸で和食との相性もよく、白身魚や貝、酢の物などと一緒に楽しんでいただきたいですね。」

④ルーペル グラマティク エクザルフ 2015


長期熟成を意識して造られており、その年に収穫されたブドウの味わいによってブレンドする品種や割合を変えるというユニークな方法が取られています。ワイナリーはストルゥマ・バレーにあるルーペル。
田村さん「こちらは2015年ヴィンテージなのでそろそろ飲み頃だと思います。イタリアのワインがお好きな方にもおすすめの味わいです。」

進化が止まらないブルガリアワイン

大量生産時代に植えられた国際品種の樹々が樹齢30年を越すようになり、今後さらに高品質なワインが生まれるだろうと期待が寄せられるブルガリアワイン。長期熟成できるワインや、じっくりと楽しみたい価格帯のラインナップもこれからどんどん登場してくることでしょう。お手頃に手に入る今のうちに、ぜひ試しておきたいですね。

後半では同じく東ヨーロッパの国、ルーマニアのワインについて引き続き田村さんにお話を伺っていきます。3月中旬公開予定です。


後編:家飲みワインに嬉しい選択肢。ルーマニアワインの実力を体感しましょう


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