多様性を知るともっと面白くなるドイツワイン


口当たりが良く、酸がきれいで、ワイン好きはもちろん、お酒があまり得意ではない方にも好まれるドイツワイン。品質の高い甘口の白ワインに出会うことが多いですが、じつは辛口ワインにも注目したい産地です。
山本さん「ワインが世界中で人気となり、流通していく中で、ドイツワインはヨーロッパのほかの生産国と差別化を図るために、『ドイツワインといえば甘口ワイン』というブランディングで戦略的に売り出していきました。世間のイメージ通り、ドイツワインには素晴らしい甘口ワインがたくさんあります。でも、現在の生産量を見てみると約6割が食事と合わせて楽しむような辛口系のワインなんです。甘口から辛口まで、そしてさまざまな品種があり、生産者や土地によっても個性が違う。多種多様で奥が深いのがドイツワインなんです。」

今回お話をしてくださったのは、ドイツワイン専門店『銀座ワイナックス』で販売責任者をなさっている山本さん、そしてマーケティングを担当されている星野さんのお二方。たくさんの発見があるインタビューでしたので、前編、中編、後編の3部構成でお届けしますね。

現地で仕入れ、消費者まで直接届ける。ドイツワインのエキスパート

現地を訪れる星野和夫氏
インタビューにお答えいただいたお二人が在籍される『銀座ワイナックス』は、35年以上もの間、ドイツワイン一筋に輸入から販売までやっていらっしゃるドイツワインの専門家集団。星野さんのお父様である星野和夫氏がドイツ留学中にドイツワインに惚れ込み、日本に広めたいという想いのもと始められたそうです。ドイツワインを品質の良いまま消費者に届けたい。その情熱からくるこだわりは目を見張るものがあります。
フランツケラー
星野さん「まず、年に2〜4回ほど生産者を訪問し、テイスティングしてワインを直接輸入しています。取り扱うワインにも2つの特徴があって、VDP(ドイツ優良ワイン生産者協会)というドイツワイン生産者の約1%のみが加盟する、厳格な品質基準に基づいてワイン造りを行う生産者団体があるのですが、取り扱うワインのほとんどがVDP加盟生産者のものです。そして、もう一つが合成保存料であるソルビン酸を含まないもの。これらの基準を設けた上でワインを選び抜いています。」

そして、輸入の仕方にもこだわりを貫いていて、まずはリーファーコンテナ(低温輸送するため温度管理ができるコンテナ)を使い、さらに揺れの少ない船底を指定して運ぶという徹底ぶり。これらを創業当時から行っているというから驚きです。

星野さん「船底から積める港は限られているのですが、わざわざその港まで運んでから船に乗せているんです。父はこだわるととことんなタイプで、そして本当に行動してしまう。娘の私から見てもすごいなぁと思います(笑)。」
そして無事に日本に到着してからも温度だけでなく湿度管理もできる自社倉庫で保管しているそうです。
お店の様子
山本さん「ドイツワインのインポーターでショップまでもっているケースはそう多くないと思います。品質を保ったまま消費者の方にお届けできるので嬉しいですね。」

1980年代のワインも!ヴィンテージワインがずらり


星野さん「ヴィンテージワインを熟成保管しているところも私たちの特徴かもしれません。世の中に熟成された甘口ワインは存在するのですが、ドイツワインの中辛・辛口となるとなかなか見当たらない。そもそも甘口以外のワインを熟成させる習慣がドイツにはなかったそうです。でも父のこだわりで、中辛・辛口のワインも寝かせると魅力が増すに違いないと。お店には古いものだと1980年代のものから保管されています。生産者でさえ既に持っていないヴィンテージのワインもあります。もちろん購入していただくこともできますよ。」
山本さん「お子さんが成人された時のお祝いにお子さんの生まれ年のワインを購入されていく方もいらっしゃいます。」
運が良ければお店でヴィンテージワインをテイスティングができることもあるそうです。とても興味深いですよね。

このように、輸入から保管まで徹底したこだわりを見せ、ドイツワインの博物館のような側面も持っている『銀座ワイナックス』。創業者である星野和夫氏はドイツワインに関する書籍も出されているそうですが、それほどまでにドイツワインに魅了されたのはなぜなのでしょうか。

間口が広くて奥が深い、そして繊細なドイツワイン

大きく4つのポイントに分けて紐解いていきましょう。

◆世界でも稀にみる味わいの多さ

星野さん「一つ目に父は、ドイツワインの多様性に惚れ込んだそうです。ドイツはフランスと違い、一つの生産者がさまざまな品種を育てています。代表的なリースリングやピノノワールのほかに、ショイレーベ、ムスカテラーをはじめとした個性的な品種も多く存在していて、味わいも甘口から辛口まで幅広い。そしてそれらが土地や生産者の個性でまた違った特徴を出し、さらに糖度による等級まで存在します。」
山本さん「つまり、品種や糖度、等級という味わいの間口が広く、そこに生産者や土地という個性の奥行きが深くあるので、非常にバラエティ豊かなワインが楽しめるんです。これが、私たちがドイツワインをもっともっと追い続けたくなる魅力の一つだと思います。」

◆品種の味わいをストレートに楽しめる


星野さん「二つ目のドイツワインの特徴が、多くのワインが単一品種で造られているところ。ブレンドをしないんですね。ドイツには約140のブドウ品種が栽培されており、主要品種は約20品種になるのですが、品種の個性をストレートに楽しんでいただけますよ。」

◆厳しい環境が生み出す土地の個性を反映したワイン 

ブドウ畑の様子
実に多種なブドウ品種を栽培するドイツですが、世界のワインの産地の中でも北限に位置しているため、ワインを生産するには過酷な環境だそうです。しかし、だからこその魅力があると山本さんは言います。

山本さん「生産地があるのは北緯50度ぐらいのところで北海道よりもさらに北に位置しています。寒さが厳しく日照時間も少ないので、ブドウをかなり晩熟させるんですね。長く栽培する分、ブドウの木は地下深く根を下ろし、土地のミネラルを長時間かけて吸収します。そのため、土地の個性を色濃く反映したワインが生まれると言われています。さらに、ブドウ畑は切り立った崖のような急斜面にあることが多い。機械が入らないところでは、人の手で丁寧に収穫されます。厳しい環境の中で時間と手をかけて造られた結果、その土地ならではの面白いワインが生まれるんです。」

ドイツワインの特徴であるミネラルを感じる繊細な味わいは、ドイツの厳しい環境が生み出したものなのかもしれません。そしてこの繊細さが星野和夫氏がドイツワインを日本に広めたいと感じたもう一つのキーポイントだそう。

◆和食との見事なペアリング


星野さん「父はドイツワインに出会った時、これこそが日本人の味覚に合うワインだと強く感じたそうです。豊かなミネラルとしっかりした酸、繊細な味わいを特徴とするドイツワインは、素材を活かす日本食の繊細さに通じるものがあります。特に寿司や焼き鳥など、味付けがあまり濃くない食事とのマリアージュは本当にしっくりきますよ。」

『銀座ワイナックス』では、寿司とドイツワインを合わせる会など、ペアリングを実際に楽しんでもらうイベントを定期的に開催しているそうです。このイベントについては中編で詳しく紹介しますので楽しみにしていてくださいね。
これだけ魅力が多いドイツワイン。2,000年ほど前からワイン造りがなされていたというほど歴史が古いそうですが、ヨーロッパの他の生産国に比べると日本での流通量は多くない印象を受けます。それには理由があるそうです。
山本さん「ドイツワインは厳しい環境のため、フランスやイタリアに比べて生産量が少なく、そのほとんどがドイツ国内で消費されてしまうんです。しかし、世界の3つ星レストランのワインリストにドイツワインがラインナップされていたり、最近では赤ワインの評価が高まってきているなど、近年世界から着目されていることは間違いないですね。」

今、まさに変革期。さらに楽しみなドイツワインの未来


冷涼な環境のドイツでは、以前は白ワインが生産量のほとんどを占めていました。しかし、気候の変化により、ドイツでも赤ワインの生産量が増え、品質もより良くなっているそうです。
山本さん「温暖化以前、1割ちょっとに過ぎなかった赤ワイン品種の栽培面積が今では約3割半ほどに増えています。品質も上がり、特にドイツのピノノワールが世界的にも注目されるようになってきました。」
以前には造れなかったワインが造れるようになったことで、ドイツワインはさらに奥行きを増しているようです。
星野さん「そして、ドイツワインの評価基準にも大きな変化が生まれています。以前は糖度の高低で等級が決まっていたのですが、ドイツワイン法が改定され、テロワールによる評価へと移行されます。甘ければ甘いほど素晴らしいというものではなく、気候や土壌、地形の特徴などテロワールに基づく原産地の良さにより、甘口も辛口も評価されていく。私たちが伝えたかったドイツワインの魅力がより多くの方に届きそうで、今後のドイツワインに期待が膨らみます。」

探究心をくすぐるドイツワイン

ドイツワインの今と魅力をお伝えしてきましたがいかがでしたか?品種だけでもすごい数があり、そこからマトリクス的に多大な味わいがあることを想像すると、好奇心旺盛な方や凝り性な方ほど、さらにさらにと追求したくなるのではないでしょうか。さて、次回の記事はドイツワインの実践編。選び方や楽しみ方について、山本さん、星野さんに引き続き教えていただきます。2月中旬公開予定です。

中編:初心者でもしっかり分かる!ドイツワインの選び方と楽しみ方
後編:ドイツワインを堪能しましょう。ドイツワイン一筋35年のプロがおすすめする8本

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